夏の幻

草いきれの中で
むせかえるようなあなたの呼吸を聞いた
現実の膜が破れかけていて
陽炎があなたの影を不意に歪ませた

もうここには存在の脈々としたものがない
風鈴の音は聞こえない
縁側の西瓜もない
太陽を睨みつける無謀さだけはなかったけれど
朦朧とした意識の中で
蝉の声をじっと聞いていたふたり

…ジワジワ

ジワジワと死んでいく蝉を捕まえる
虫かごなんていらない
捕らえたものは返せない

夏は閉鎖していく
どんどん閉鎖していく
夢中になりすぎたあなたは
きっともう帰ってはこない
過ぎていく
夏は過ぎていく
それでもあなたは過ぎていかない

ずっとここで生きていたいと言う
あなたはきっともうすぐ蝉になる
私はそのまま帰っていくの
夏の間にあなたを置き去りにしたまま